寄与分が認められた判例|相続分が多く認められたケース
記事の最終更新日:2016年05月05日
カテゴリ:相続手続き
生前、被相続人に特別な利益をもたらした人には特別な割合で相続分を取得する権利が認められています。これを寄与分と言い、民法で定められている制度。介護などで献身的なサポートを行った人は「(介護の労力も)遺産分割のときに、正当に評価されるべきだ!」と主張したいところでしょう。
寄与分が認められるには、どのようなケースがあるのか確認していきましょう。
民法 第904条2項
1.
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。2.
前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。3.
寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。4.
第二項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
この条文のうち「特別の寄与」として認められるかどうかがポイント。通常の寄与であると判断される場合は、寄与分は認められません。
それでは、特別な寄与として認められるものは、どのようなものなのでしょうか?
もくじ
特別な寄与とは?
特別な寄与として認められるには、下記のような要件を満たす必要があります。
通常考えられるサポートを超えていること
親子や夫婦間では相互に支え合う義務があると考えられています。
という理由だけでは、特別なサポートとして認められません。
子どもが親の介護を行うのは親子として当然の義務として考えられているからです。
病院にお見舞いに顔も出さず、介護の相談をしても何も反応を示さなかった親族がいた場合、その人と、介護をしてきた自分が同じ相続分と言われても納得いかないのは当然。介護の苦労を否定されたように感じてしまうかもしれません。
しかしながら、これが法律の規定のため遺産分割協議がまとまらない場合は、この規定をもとに審判が下されるでしょう。
相続財産の維持または増加と相当の因果関係があること
相続財産がどのように変化したかが重要。どんなに献身的な介護を行ったとしても被相続人の財産に影響を与えなければ寄与分として認められません。
被相続人の最期のときまで笑顔を絶やさぬよう、穏やかな気持ちで過ごすことができ、被相続人も心から喜んでいたような場合でも1円も加味されません。
どうしても家庭裁判所の審判では形式的に判断しなければならない部分もあるため、かなりドライな基準となっています。
無償のサポートであること
特別な貢献に対してすでに報酬が支払われている場合は、寄与分として認められていません。すでに貢献分の対価が精算済と判断され、それ以上の相続財産の分配を考慮する必要がないからです。金銭的な授受だけでなく、介護のために被相続人と同居し、その際に家賃を払っていないケースも寄与分が認められないことが多いです。
ただし、授受した報酬額が貢献した金額よりも少ない場合は、不足分に対して寄与分が認められる場合もあります。
共同相続人であること
どんなに亡くなった方(=被相続人)に多大なる貢献をしても相続人でない人には寄与分は認められていません。
例えば、長男の嫁で義父の介護をされていた場合や、内縁の妻がどんなに献身的に介護を行っても相続人ではないため寄与分の請求はできません。
寄与分が認められた判例
実家の土地売却にあたり交渉・手続きを自己負担で進めた
被相続人の土地を売却するために下記のような手続きを行った場合、寄与分として300万円が認められました(長崎家諫早出張審昭62.9.1)。
老朽化した建物を取り壊したうえで、土地を売却することができ売却価格が増加したため、被相続人の財産価値を上昇させたと考えられたようです。
認知症の被相続人を、常時見守り、食事・排泄の介助を3年間行った
介護を行ってきた子どもは、3年間ずっと被相続人に尽くしてきたことが評価され、寄与分として876万円が認められました(大阪家審平19.2.8)。
このケースの場合、子どもが介護を行わなければ被相続人は介護施設に入らなければならず、その施設利用料を削減できたことが特別な利益に該当。寄与分として認定されました。なお、寄与分の算出方法は、1日あたり8000円×3年間 でした。
長男の嫁が義母を介護してきた
介護を行ってきた長男の嫁は、本来、相続人ではないため寄与分は認められません。ただし、長男が相続人であるため、嫁の寄与分を請求。履行補助者の寄与分として寄与分が認められました(東京家審平12.3.8)。
給料を得ず、父親の家業を手伝ってきた次男
父親の家業を手伝いながら小遣い程度の報酬を得ていた次男。寄与分は、基本的には無報酬の場合に認められますが、報酬を得ていても、本来得られるべき労働対価としての報酬額に不足する分は寄与分として認められました(大阪高決平2.9.19)。
父に代わって医療法人の経営を引き継いだ長男
父親が経営する医療法人を引き継ぎ、経営を任されたきた長男。経営は順調に成長し、父の財産形成にも大きな影響を及ぼしました。この結果、寄与分として相続財産の3割が認められました(大阪高決昭54.8.11)。
まとめ
寄与分が認められるには、相続人に特別な利益をもたらしたと認められることが必要。法律上の判断ではかなり厳格な基準が設定されています。実際には、この基準を満たしていなくても、生前のサポートに感謝して遺産相続をして欲しいと考える方も多いのではないでしょうか?
「生前のサポートの感謝の気持ちを残したい」
このように考えるのであれば、あとでもめないよう遺言書を残しておくことをおススメします。
また、生前から計画的に贈与を行うことで、相続税が課税されることなく財産を引き継ぐことも可能です。
【参考記事】
暦年贈与とは?贈与税がかからない金額は1人110万円以下
寄与分を客観的に認めるにはとても労力がかかり、トラブルに発展してしまうことも多いのが現実。自分の想いを反映した相続を行うには遺言書が不可欠です。遺言を残すだけで争うことなく相続手続きを進めることができます。
【参考記事】
遺言とは?3種類の遺言書
死後の世界に財産は持っていけません。生きている間に感謝の気持ちを伝えながら、次の世代へ幸せな環境を残していけると良いですね。
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